道草、すればいいじゃん。

  1. 倉田話

 2019年7月27日。僕は新潟県の苗場スキー場にいた。真夏になんでスキー場に行ってるかというと、「フジロックフェスティバル」に参加するため。2018年の夏頃から、「来年はフジロックに行く」と決めてから1年間、仕事を全力で走り抜けた。僕がやっている居酒屋「あがりこぐち」に来てくれたお客さんならわかると思うが、僕は毎日のように「フジロック! フジロック!」と連呼していた。そのくらい、行きたくてしょうがなかった。そして、この夏、フジロックに行けた。

 福山から車を12時間ほど走らせて、会場の苗場スキー場に到着した。そこは、僕にとっての夢の世界が広がる楽園だった。山一面にひしめき合うテント群が、山を色鮮やかに染め上げている。南米とかでよく見る色鮮やかな建物って、こんな感じなのだろうか。フジロックの会場に向かう道中には、世界各地から集まった音楽ファンたちが自分たちの好きな格好をして、楽しそうな会話をしながら列をなしていた。会場に入る前から、フジロックという「非日常」を感じた。

道草したぶん、遠くに行ける

 目の前で大好きなアーティストたちが大好きな曲を演奏し、その曲に乗りながら、自由に踊る聴衆。たまたま出会った友人とビールで乾杯しながら、これからどのバンドを見に行くのか、どんな音楽が好きかを語り合う。そんな時間が2日間ずっと続いた。僕にとっては、幸せで大切なかけがえのない時間だった。

 仕事を一生懸命やっている人が大勢いる。きっと仕事をする目的はそれぞれ違うだろう。何か成し遂げたいことがあるからとか、愛する家族を守るためとか。しかし、どんな素敵な目的があったとしても、仕事だけを続けていると知らず知らずのうちに疲れてしまい、「なんのために働いていたんだっけ?」と目的が見えなくなってしまうこともある。

 そんな時は道草をすればいいと思う。道草はなんでもいい。旅行をするだとか、ゲームをするだとか、1人で飲みに行くだとか、好きなことをすればいいと思う。好きなことや趣味があんまりない人は、とりあえず、仕事もなにもせずに、ゆっくり休めばいい。僕にとっての道草は、フジロックで朝早くからビールを飲んで、大好きな音楽を聴くことだった。

 「道草を食う」の由来は、馬が道端にある草を食べて進むことが遅れること。あまり良くない意味として使われることが多いが、僕はこの言葉がとても好きだ。全力で走り続けて、途中で倒れてしまうよりも、たとえ遅くなったとしても、道草を食べた分だけ遠くへ進める気がするからだ。競走馬が、レースが終わった後も全力疾走できるとは思えない。

 だから、道草していいんじゃんと声を大にしてアナタに言いたい。日々、焦って、悩んで、不安になって、どうしようもなくなって、それでも懸命に前に進もうとするアナタはカッコいいんだ。でも、疲れたら休んでいいんだ。ゆっくり道草しててもいいんだ。周りが気になるのなら、「どうぞお先に」と言えばいい。道草すれば、もっと遠くにある、楽しい世界が待っているはずだ。

 僕は、また来年のフジロックという最高の道草をするために、仕事を頑張ろうと思う。

倉田 敏宏

くらたとしひろ/1994年福山市生まれ。tachimachi代表取締役。東京のベンチャー企業で働いた後、福山に戻って起業。「暮らしの余白を彩る」を理念に飲食店経営や企画、写真撮影などを福山と東京の2拠点で行う。現在、東京から福山へ訪れるきっかけづくりの企画を進めている。

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