今も鳥肌が立つ瞬間。
染色工房 幟屋(のぼりや)
2005年設立。個展を中心に活動する型染め工房。手ぬぐいやのれんなど、依頼に合わせてデザインを起こす、型染めのオーダーメイドも手掛ける。
問い合わせ先:info@noboriya.net
https://noboriya.net
福山市蔵王町で、伝統的な染色技法「型染め」作家として活動する石北有美さん。さまざまな模様が描かれた型染めの布はすべて、時間と手間を費やして作られたもの。「どれもが自信作」という石北さんに、型染めの魅力を教わった。
型染めは、型紙と糊を使って布を染め、模様を描く染色技法。台に貼った布に模様を彫った型紙を当てて、もち米と米ぬかで作った糊を塗ります。糊が乾いたら、刷毛を使って布を染色。布を水洗いして糊を落としたら、煮沸して色を定着させて完成です。
糊を塗った部分には色がつかず、そこが模様になります。染めを何度も重ねて模様を描く型染めは、味わいのある表現。昔ながらのやり方で生まれる色の重なりが美しく、自分が型染めに惹かれた理由もそこにあります。
ものづくりで福山を盛り上げる
型染めのなかで1番好きなのは、布を水洗いして糊を落とす「水もと」という作業。型染めは、糊を落とすまで、布がどのように染まっているか分からないのがおもしろいところです。
今、私が福山を拠点にしているのは、自分の活動を通じて、もっと多くの人々に福山を知ってもらいたいという気持ちもあります。近くには、観光地として有名な倉敷や尾道がありますが、福山にも見て楽しめる場所が増えるといいですね。例えば、街中をのれんで飾って、それを見るために福山に来てもらうような、ものづくりをうまく使って観光地として盛り上げられたらと思います。
高校生の頃は福山が嫌いでしたが、今ではこれほどものづくりの環境が整っているところはなかなかないと思っています。布を染められる広い空間や製品化するための工場、素材を買い求める問屋もすぐ近くにあります。
「バッグを持っているだけで明るい気分になれた」とか、「作品を見て元気をもらった」とか、私の作品を見たり買ってくれたりした人たちが、そう言ってくれるのがうれしいです。布がどう染まるか、どんな作品に仕上がるか。水もとをして糊を落とし、模様が現れる瞬間は、今も鳥肌が立ってしまいます。新しく完成した作品に、どんな反応が寄せられるかを考えながら作るのも、型染めの楽しさです。 (文=山﨑小由美)
いしきたゆみ/染色家。グラフィックデザイナー。1974年生まれ。1997年女子美術大学芸術学部工芸科卒業。2005年染色工房 幟屋設立。個展の開催、グループ展への出展など活動の幅を広げる。