徳岡秋雄/徳岡伝統建築研究所

  1. ヒトモノ

文化を引き継いでいく仕事。

徳岡伝統建築研究所
大正10年創業、社寺建築の設計施工業務を行う。広島県内を中心に中国・四国・九州地方、国内各地で活動。現在は学校への出張授業や社寺での解説ボランティアなど取り組みを広げる。
住所:広島県福山市霞町霞町1-2-3 グランツビル901
TEL:084-959-6161
営業時間:9:00〜18:00
定休日:日曜日

福山市で、寺や神社の設計から施工までを行う一級建築士事務所、徳岡伝統建築研究所。寺や神社の建物を作る宮大工という仕事や、福山市にある国宝の建物、明王院でのボランティア活動について、代表取締役の徳岡秋雄さんに聞いてみた。

 宮大工の仕事は、まずは寺や神社を新しく造ること。材料の切り出しや刻みはもちろん、柱の細部構造に至るまでのすべての加工や最終的な施工も自分たちで行います。寺や神社はそれぞれの宗派があります。その中で、私たちはその宗派に沿った建物の設計を決めていかなければなりません。例えば新しく寺や神社を建てる際には、施主との打ち合せを行いどのような思いでその建物を建てるのか、またそこにどのような部材や仕様を用いるのか、宗派によっても使えるものと使えないものがあり、設計はもちろん、そこから建物の方針を決めていきます。
 飛鳥時代や奈良時代の話ではありますが、寺や神社を造るのは国家プロジェクトのようなもので、寺や神社を手がける宮大工は普通の家は建てなかったそうです。それが、江戸時代になると段々と一般の町民も家を建て初めて、宮大工ではない普通の大工という仕事が生まれたというわけです。
 宮大工が使う道具にも、ひとつひとつに意味があります。例えば、宮大工が木を切るときに使う「斧」には、刃の両側に紋様のような筋が片面に3本(ミキ)、反対面に4本(ヨキ)描かれています。これは木には神が宿っていると考えられているため、木を切る人に何か祟りが起きないように。ミキ(御酒)やヨキ(五穀)をお供えするのと同じ意味で描かれていたんです。
 しかし、最近はこうした道具を使う機会が少なくなっています。寺や神社の専用の道具なので、建てる機会が減れば使うことがないというわけで。新しく建てられる建物や、修繕件数が減っているわけではありません。我々のような専門の工務店以外の会社が、こうした作業の依頼を受けるケースが増えているからです。

寺や神社の形には意味がある
 すると、構造や形が理解されないまま作業が行われるケースもあり、寺や神社の本来の形が損なわれてしまいます。建物の形や構造にも意味があるんです。それを理解した上でないと、本来なら設計もできません。例えば、お寺でご本尊を安置している場所を内陣は、参拝の際に立ち入る外陣という区画とは扉や段差によって区分されており、通常、一般の人は内陣に立ち入ることはできません。これは、内陣は仏の世界を現した聖なる空間とされるためと言われています。
 また内陣の奥、厨子(ずし)の扉の中にまつられた仏像を見たことはありませんか。これは秘仏といって、密教の宗派にあるのですが、一生開帳されないものや、何年かに一度開帳されるものがあります。秘仏がまつられた空間というのは仏像により神聖さを持たせるためにろうそくの灯りだけを用い、扉を閉めた薄暗い空間でした。これは、仏様を高貴な存在としてあがめ、神秘性を高めるための演出とも言われています。それが、秘仏のまつられる空間を見えやすいようにと明かりを入れ造られたりすると、そもそもの意味とまったく異なるわけです。

福山にある国宝「明王院」で
 一般の人が寺や神社を見ても、そこにどんな意味があるかはわからないですよね。だから、解説する機会を作る必要があると考えて、福山にある国宝の建物である明王院で、ボランティアとして「なぜこの形は続いたか、なぜこの形はなくなったか」といった解説や資料の提供を行っています。
 「明王院を愛する会」という有志の集まる会が、定期的に明王院を開放してこうしたボランティア活動を行っている中で私たちも縁があって参加するようになりました。その活動での解説は、評判がいいんですよ。寺や神社について解説する機会さえ作ってもらえれば、明王院に限らずどこでも行ってお話しします。2年前から福山大学の建築を学んでいる学生向けに年に1回、明王院と尾道の浄土寺へ行って、半日ずつ解説するという現地講座をやっています。
 寺や神社が、なぜこんな形をしているかを伝えるのも、我々の仕事です。私たちには次の世代に伝えていくという使命がありますから。

とくおかときお/徳岡伝統建築研究所 代表取締役。一級建築士。1958年生まれ。宮大工として40年の経験を持つ。昨年広島県卓越技能者として広島県知事表彰を受賞。

山崎 小由美

やまさきさゆみ/ALGORHYTHM

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