ヘアスタイルと、 コンプレックスと。

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 髪のクセや量、硬さや細さ、乾きにくかったり、まとまりにくかったり。ほかにも、頭のハチが張っていたり、ゼッペキだったり、丸顔や首が短いとか背が低いとか、髪のことも身体的なことも含めて、さまざまなコンプレックスや悩みを持ったお客様が駆け込んできます。そして、ほとんどのかたが、「理想のヘアスタイルを実現できない」と思ってます。ガールズトークでは、髪の悩みは必ずといっていいほど話題に上がるそうです。髪や身体にコンプレックスがあるかたの、ヘアスタイルのオーダーは実に消極的です。

「あのスタイルは、私には難しい」
「自分の髪質では、あんな質感は出せない」
「丸顔の私には、このヘアスタイルは似合わない」

 ほとんどのかたが、そうした「できない」をおっしゃいます。「なんでそう思うのですか」と尋ねると、必ず返ってくるのが、「昔、そう言われたことがあるから」。逆に、美容師が「できない」と言わない、コンプレックスがないお客様は世の中にどのくらいいるのでしょうか。たぶん1割か、いても2割くらいでしょう。そんなお客様だけを対象としていては、美容室の経営は成り立ちません。

 頭の形が良くて髪質がキレイで、毛量が普通の、コンプレックスが無い方への施術は簡単です。対して、コンプレックスがあるかたの場合には、相応の技術や知識の習得が必要です。過去に、「そう言われた」理由を考えると、髪や身体のコンプレックスを理由にすれば、諦めてもらいやすいからではないでしょうか。
 お客様は最初、自分の希望を叶えてくれる美容師とお店を探し続けますが、どこの美容院に行っても「できない」と言われることで、いつしか諦めて、消極的なオーダーをするようになります。

「必ずできます」
「必ず改善できます」
「必ずかわいくなります」
「必ずきれいになります」

 そんな言葉があれば、どれだけの女性の気持ちを救えるか。どれだけ自信をつけてあげられるか。今日できなくても、いつかそうなると思って来てくださるお客様の期待に応えられるように、さまざまな技術を磨き、知識をつけ続けています。こうしたコンプレックスのほとんどは、美容師の日々の努力と勉強で解消できます。お客様ひとりひとりの悩みが見えるようになること、感じられるようになることが、美容師の第一歩です。

 女性は本来、わがままでなければなりません。「あれがしたい」「こんなヘアスタイルにして欲しい」というわがままを、どんどん言っていきましょう。美容師は、「できない」と言うのではなく、お客様ひとりひとりに対して、希望を叶える最大限の努力をすること。美容の仕事は、ひとりひとりに対してのオートクチュール。そんなワクワクする仕事です。私は、コンプレックスが無いお客様はほかの店でも良いと思っています。むしろ、他店で「できない」と言われるようなコンプレックスを持ったお客様こそが、agehaの顧客です。コンプレックスを解消できた瞬間の、お客様のうれしそうな顔を見るのが私のよろこびです。

河上 倫久

かわうえみちひさ/rinka.代表取締役、美容師。1971年福山市生まれ。東部美容学校卒業後上京、そしてロンドンへ。帰国後、大手美容院に10年務め、2005年ageha hairを立ち上げる。

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