66歳「やってみる」。
「去年初めてひとりで海外に行ったんです。65歳で。言葉なんか通じないけどね、なんとかなった。もう一人で、どこでも行ける気がしますよ」と話すのは、塚本木工所の塚本豊彦さん。親交がある家具ブランドのオーナーから、オランダにできる新店舗のオープン準備を見に来ないかと誘われた。「なんだか行かないといけない気がして。そういう時ってあるでしょ。だから、思いきって行ってみたんです」
戦後間もない1947年、大阪で修行を積んだ先代である父親が、地元福山で創業した塚本木工所。10年が経つころには福山市内の小学校や公民館など、公共の施設にも家具を多く納めるようになった。
「今の30代から70代の福山市出身者は、ほとんどの人が塚本木工所の家具を利用したことがあるんじゃないかな。しかし、学校が建つか建たないかで業績は波うつし、製品の良し悪しは品質ではなく価格で判断されることが多かった」
安定して品質の良いモノ作りをしたいと、自社商品の開発も視野に入れ始めた。父親と同じく大阪で修行を積んだ後、塚本さんが25歳のとき、福山に戻って、塚本木工所に入社した。その後、テーブルと椅子を軸とした生産に移行した。現在では、全国各地のインテリアショップに塚本木工所の家具が並び、テレビドラマなどでそれらを見かけることもある。
手をかけるこだわり
「今はCAD(キャド:コンピューターによる設計支援ツール)で描いた家具の図面をそのまま機械で仕上げられる時代です。企業では、いかに早く、手をかけずに、コストを下げて生産することが重要視され、腕のある職人は全国的にも少なくなってきた。でも、やはり職人しか仕上げられない家具はあるし、美しい『線』がひける職人もまだいます。採算は合いにくいけど、私たちはできるだけ手をかけて家具作りを続けています。お客さんが手でさわって『やさしい手触りだな』『良い品だな』と感じてもらうものだから『手をかける』。それをプライドとしてやっています」
挑戦し続ける人
「私は、経験から『これは作れない』と判断するよりも『ひとまずやってみよう』とチャレンジして、最後にはなんとか形にする職人でありたい。うまくいかないときも、少しづつハードルを超えながら進もうとする人や企業は、やっぱり伸びていきますよね。先代も挑戦する人でした。クレームも、私にとっては大事な教材です。壁にぶつかったときには、諦めるでも迂回するでもなく、いつも正面突破です」
そう笑って話してくれた塚本さん。そんな工場だからこそ今も信頼され、全国のファンに愛され続けている。ときどき自分用の椅子を設計することもあるが、なかなか製作を進めることができないでいる。
「自分の椅子には期限がありませんから、つい細部まで追求し続けてしまう。でも、できあがったらそれは僕にとって究極の椅子ですよ」
塚本さんの妥協のない「やってみる」は続く。
塚本木工所
椅子やテーブルを中心とした自社製品の生産と共に、さまざまな家具ブランドのOEMも引き受ける。
住所:広島県福山市北本庄2-8-9
TEL:084-922-3473
http://tsukamoto-mokko.co.jp