早間寛将/三暁(鍛造いかり)

  1. ヒトモノ

三暁
1951年鞆町で船具の製作所として設立。現在は鞆鉄工団地で、芦田川河口付近にかかる芦田川大橋のケーブル端末金具など、金具製品の設計、製造、販売を行う。2017年中義鉄工所から鍛造いかり作りを継承。
http://sangyoco.co.jp

真っ赤な鉄を叩いて、モノ作りの原点に挑む。

 三暁という会社は、鞆の浦の鞆鉄鋼団地にあって、吊り橋やクレーンに使われるワイヤーロープなどの特殊な金具を作ってる会社です。あとは、海外のバイクの部品だったり、金属のオーダーメイド品も多いですね。従業員は26名で、平均年齢は38.4歳です。
 三暁は、1951年に鞆の漁師ら3人で創業した三暁船具製作所を前身としています。当時はコークスで鉄を焼いて、ハンマーで叩き、それを旋盤で削って金物を作っていました。昔あったセルコの裏手に鉄工所が固まってて、そこで20坪前後のスペースでやってたそうです。3人で始めたから三暁なんだそうですが、暁はどういう意味なのか、今となってはわかりません。

工場を職人さんごと引き継ぐ
 2017年1月に、同じ鞆鉄鋼団地にあった、いかりを作っている工場を、52歳の職人さんごと引き継ぎました。戦前から続く中義鉄工所という会社があって、そこの社長さんが89歳になって、会社の跡継ぎがいなかったという事情がありました。
 そこでは、鍛造という技術でいかりを作っています。鍛造は、鉄を真っ赤に焼いて、叩いて、いろんな形に加工する技術です。鍛造でやると、鉄は鍛えられて強くなる。最近主流になっている海外製のいかりは、鉄を曲げただけとか、溶接しただけのものが多くて、強度が格段に違うんですよ。
 鍛造には「型打ち鍛造」と「自由鍛造」があって、僕らが中義鉄工所から受け継いだのは自由鍛造。巨大なハンマーで鉄を何回も叩いて、人の手でいろんな形を作っていくのは、自由鍛造ならではです。型打ち鍛造は、型を使って作るので大量生産には向いていますが、金型が1個作ったら100万円とかとても高く、技術力を持っている型打ち鍛造のメーカーは、すでに世の中にたくさんあります。
 ここ数年、少ない数でも対応してくれた自由鍛造の外注先が、どんどん減ってきています。つまり、人の手でやる鍛造技術がどんどん失われていっています。だったら、自分たちでやるしかないなという思いで、今回、鍛造によるモノ作りという、新しい挑戦を始めることにしました。
 三暁は、ここ20年は機械加工に特化してきましたが、設立当時は船具を作っていたし、それまで自由鍛造もやっていたので、会社としては原点に戻ったような気もしています。
 いかりってかわいいじゃないですか。なんか、好きなんです。最近、海辺に行くといかりがめちゃめちゃ転がっていることに気付くようになりました。「こんなにあったんじゃ」って。好きないかりは、四つ爪アンカーと、ストックアンカー。いかりのことを話していると、それだけで酒がおいしく飲めますね。
 今まで名刺交換の時に「金具を作ってます」と言ってもなかなかわかってもらえなかったのが「いかり作ってます」と言うと盛り上がる。3月の終わりから製造過程とか、毎日1枚ずつ写真をアップしたら、僕のインスタのフォロワーは2500人を超えました。いかりはシンボルになるし、会社の宣伝にもなりそうです。伝統文化として、そのうち価値も出てくると思うんですよね。
 いかりって安いんですよ。けっこう大きなものでも数千円。それでも、その技術と地元の特産品を残していくという意味で、採算的にギリギリでも続けようと思っています。すでに、本業であるオーダーメイドの小ロット品に鍛造技術を活用しています。
 もともとの職人さんが引退するまであと10年くらいと考えると、引退までに鍛造技術を継承しながら、モノ作りをしていきたいです。22歳の新人と39歳の私と3人のチームで、鍛造技術を生かした、新しいモノ作りをやろうと思っています。
 ひとつは、インテリア。鍛造技術で家具を作ります。あとは、スプーンとかフライパンといったキッチン用品ですね。あと、斧も作ろうかなと思っています。外人さんは部屋に斧を飾ったりするじゃないですか。最近、日本のアウトドアメーカーにも斧を作ってる会社はあるし、キャンプブームも盛り上がっていて、もっと斧がきそうな気がしてるんですよね。
 会社を父親から継いだのが2015年。経営は、できとるようなできてないような。私が会社を伸ばした感じじゃなく、今はまだ先人が築いた土台の上で仕事をしているので、経営者としてはまだまだこれからだと思っています。
 この業界は、5年も経つと売れる商品がガラッと変わるんです。気付いたら、10年前の主力商品がまったく売れなくなってたりっていうのがよくあります。だから、未来に向けて注文を減らさないためには、新しいことをやり続けないとと思っています。やっぱり、斧は本気でいける気がするんですよね。

はやまひろまさ/1978年福山生まれ。1997年誠之館高校を卒業し追手門学院大学へ。2001年〜2003年大阪で社会人を経験し、2003年4月に福山に戻り三暁入社。2015年より現職。hayaaaw6(Instagram)

廣川 淳哉

ひろかわじゅんや/編集者。日経デザインやAXISのソニーデザイン、LEXUSの雑誌やホンダ、シチズンのウェブサイト、書籍はマツダデザイン。Penオンラインで「餃子」連載中。

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