2017年夏、植物に教えてもらったこと。
なつめゆうこ/庭師・園芸店店長。広島県福山市在住。沼隈町にある木造校舎を改装した園芸店「丘の上のつるばらや」から、自然と共存できる庭づくりの魅力を発信している。
3週間の旅行から帰った時のこと。荷物を置いてまっ先に観葉植物に駆け寄った。友人に水やりをお願いしていたとはいえ、夏の最高に暑い時期、閉め切った部屋に置いて行かれたあの子たちは弱っているに違いない。動かせる鉢はご近所に預けたり、できる限りのことはして出かけていたがどうしても動かせない大物だけを、泣く泣く家に置いてきていた。心配と共に辿り着くと、その姿に驚いた。出かける前より、大きな葉の柔らかい新芽がたくさん出ている。その新芽たちを撫でてみた。それまでの固くてごつい葉っぱとは明らかに違う。ふわふわしていて「おかえり」と言ってくれているようにも感じた。
「植物は必死に生きようとするから、環境によって伸び方も育ち方も変わるんですよ」
丘の上のつるばらやの、夏目ゆう子さんの言葉を思い出した。暑い部屋の中で、このままではいけない、水分を少しでも多く摂れるように葉の表面積を自ら広げようと育ったのか。
子供たちも好きな植物
成長と併せて、もう一つ驚いたこと。それは、子供たちが植物の無事を喜んでいたこと。大きな鉢に入った植物を夏目さんが家に運んでくれた時、「トルネード型になってるから、トッド!」と子供たちで名付けをした。それからは家族みんなで名前で呼び、水をあげ、新芽の数を数えては「頑張って大きくなるんだよ」と応援したり、日当たりを気にしたり。まるで家族の様に過ごしていた。
「植物はペットと一緒で、ものを言わない生き物です。植物と暮らす体験は記憶として子供たちに残り、感受性を育ててくれます。暑い、寒い、苦しいを伝えられない植物は、成長の前進後退でしか、その意見を表せない。その、変化に気付ける優しさは、人にとってとても大事なこと」
毎日が忙しかったころは、植物が好きでも、植物を育てようという気持ちにはならなかった。でも、育ててみるとゆとりが生まれたからというよりは、一緒に暮らす中でゆとりが生まれる気がする。夏目さんが言っていた。
「最近の住宅は直線が多い。人には生み出せない曲線が、植物にはあります。日常に曲線を置くことは、知らず知らずの癒しにもなるんですよ」
返事のない植物とのコミュニケーション。それは、思いのほか多くの喜びと発見があり、そして福山には、夏目さんという頼れる植物の先生がいる。言葉なき植物を育てることは、自分の器を育てている気にもなる。

丘の上のつるばらや
住所: 〒720-0402 福山市沼隈町中山南2127-1
TEL:084-988-0833
営業時間 :9:00 ~ 17:00
定休日 :水曜日、木曜日
http://www.niwaliferoka.com/tsurubaraya/