楽しいか楽しくないか、で決める生き方。
おかざきむつみ/島根県出身。 1966年生まれ。大阪の大学を卒業後、タワーレコードに入社。退職後の2007年、渋谷にダイニング「et sona」をオープン。2019年に尾道市御調町に夫婦で移住。
18年間続けた音楽関係の仕事を辞めたのは39歳の時。その後、東京渋谷の路地裏に10坪ほどの飲食店をオープン。奥様の実家から届く福山産の野菜を使った料理を出すダイニングを、夫婦で経営していた岡崎睦さん。多くの著名人が集う人気店になったにも関わらず、50歳を機に「暮らし方」に目を向けるようになり、2019年に尾道市御調町に移住してきました。今の岡崎さんが考える「働く」とは?
タワーレコードに勤めていたころは、雑誌作りやイベントを企画する仕事をしていました。でも、自分は音楽を作っているわけではない。誰かが作った音楽を「使って」仕事にしていたわけです。2007年に渋谷に小さなダイニングを開いたんですが、それも同じく、僕にとっては編集作業。食材を自分で作っているわけではありませんでした。だから料理をすればするほど、野菜を作るところからやってみたいと、台所の近くに畑があったらどうだろう? と思うようになりました。
お金や時間に捉われず暮らす
世の中ではだいたい、お金と時間が大切だとされています。自分もそうでしたが、その価値観を見直してみようと、数年かけてこれまでの暮らしを振り返り、2018年に尾道にある中古物件を購入し、店をたたんで移住してきました。たくさんお金を稼いだほうがいいと思ってがんばっていた時期もあったし、お金のことを第一に考えるならダイニングを続けていればよかった。それでも移住してきたのは、定量化できる時間とお金の価値観を変える作業に挑戦したいと思ったから。例えば一つの物の値段に「お金や時間といったコストがどれだけかけられたか」ではなく「どれだけおもしろそうか、楽しそうか」で考えられるようになってみたい。やってみた結果、やっぱりお金や時間が大切と思うかもしれませんが、50年間信じてきた価値観とは、別の世界があるならそれを見てみたい。今お金や時間に捉われず暮らしていることが新鮮で楽しいです。
家のリフォームも、妻や仲間たちと一緒に自分たちの手でやっています。自分の居場所を作るという楽しい作業を、お金を払って誰かに頼むなんてもったいないと思ったんですよね。昨年の夏から半年あまり作業を続け、先日ようやく大まかなリノベーションを終えたばかりです。
東京で暮らしながら、移住先を探していた時、御調町で地域おこしなどの活動をしている「まるみデパート」の梶高夫婦と出会いました。一緒に何かやりたい。そう思える人がいたことが、たまたまこの場所だったんです。気候もいいし、僕たちがやりたいと思っていることをやるにも適していると感じました。
今までは人が作ったものを編集するのが仕事でしたが、この移住で自分自身がクリエイティブに暮らすことで、その立ち位置を変えることになると思っています。「自分たちでつくる」という作業をベースにして、また飲食店をやってもいいよねと妻と話しています。
何の仕事をやるか決めるのではなく、とりあえずやってみて楽しいかどうか。だから自分の肩書きは、まだしばらく定められないし、そもそも肩書きなんて必要ないかもしれません。
価値観と違うものがあるかを見たい
今は、仕事がひとつじゃなくてもいい時代。多拠点で暮らすこともありだし、もっと自由な考え方は、きっと暮らしを楽しくさせると思うんです。良いか悪いかじゃなくて、楽しいか楽しくないかを基準にして、結果それが仕事になって、僕たちの新しい暮らしになる。50年間積み重ねてきた価値観とは違うものがあるかを知りたい。そう思って、挑戦作業を始めたばかりです。