今、私たちが生きているこの世界に、かつて恐竜が生きていた。「同じ月を見ていたんだ」と気付いた夜は、原子となった恐竜の粒が空気の中を漂っている気がした。今は骨という「物質」になったけれど、確かに「いた」と、静かに主張している。
そんな恐竜に夢中になった芸術家がいる。彼は、随分年上の詩人に自分が作った恐竜のかぶりものを見せた。詩人はとても喜んだ。それがうれしくて、詩人に会うたびに新しく作った恐竜を持って行った。詩人は恐竜に詩をプレゼントしてくれた。またまたそれでうれしくなって、もっと作品を作る。そして詩もできる。そんなある日、詩人が言った。「実は恐竜には興味がない」
芸術家がびっくりしていると、「僕が興味があるのは、下田くんの作った恐竜」。そして一緒に作る理由を「友情」とさらりと言った。芸術家の力がわいてきた。そして、この本が生まれた。この黒い本の中に、白い線で描かれた恐竜と、恐竜になった芸術家と、詩人の言葉が眠っている。君の手で扉をひらき、ページに光をあてて、「恐竜がいた」世界を目覚めさせよう。
君の心の中の恐竜も、時を越えて目覚めるだろうか。